くらしのちえ

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阿房列車の味わい方

内田百閒の阿房列車。簡単にいえば内田百閒先生の旅行記なのですが、味わい深いこの本をどんな風に味わっているかについて考えてみました。

 

第一阿房列車 (新潮文庫)

第一阿房列車 (新潮文庫)

 

  

本の内容

「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行ってこよう」という有名な書き出しで始まる本書。内田百閒と教え子で国鉄職員のヒマラヤ山系氏が何も用事があるわけではなく、各地に出かけ、戻ってくるまでを描いた随筆です。大阪、静岡、鹿児島、新潟、横手、八代、長崎等、各地に出かけるのですが、頑なに何かをしようとはしたくない、頑固な百閒先生のストーリーがどこかユーモラスに感じてしまう旅行記なのです。

 

用事がなくても、何処に行ってもいい。そんなコンセプトを「阿房列車」と名付けています。昭和26年頃に小説新潮で連載された内容とあって、九州や四国などへも全て鉄道の旅。用事があるわけではないので、効率性は考えず、寝台列車を駆使して、行って帰ってくるだけの旅なのです。

 

寝る前に最適な本

派手な出来事は特に起こりません。お酒の好きな百閒先生は、列車についている食堂車で一盞を傾け、ヒマラヤ山系氏と会話をする。その会話も、これと言って重要な話をするわけではなく、だらだらとお話をしている。大抵の場合、寝台列車で行って、現地の到着しても帰りの電車が直ぐないので一泊しますが、何も用事がないからといって観光してはいけないといいます。なぜなら、観光すると、観光が目的だったということになってしまうから。なかなか頑固な考えですが、それがまたユーモラスに感じられるのです。

 

寝る前だと、派手な出来事が起こる本を読むと興奮してしまいます。この本なら安心。基本的には大きな出来事は起きません。言ってしまえば、ダラダラ行き、ダラダラ帰ってくるだけだから。そこに味わいを感じさせるのはすごい文章の技術だと思います。

 

ただ、問題が1つあるとすれば、旅に出たくなってしまうことでしょうか。第一阿房列車、第二阿房列車と読み進めていくうちに、同じような旅をした気分になります。そうすると今度は自分の旅にでてしまいたいくなることでしょう。本書では、飛行機を使った効率的な旅は出てこず、ひたすら列車、特に寝台列車で行くので、現在ではなかなか同じような旅は日本では出来ません。そうすると、実際には現代では難しい旅をしているので、本書を読むことで、想像の中で一緒に旅をする想像をしながら寝るのです。

 

阿房列車を本気で味わうなら

本書の書かれた昭和20年代頃の日本は、高度経済成長に向けて、国が急速に発展する時期。いろいろなゴタゴタもありながら、しかし経済が成長に向かっているので、国中で活力ある時代。今の日本では考えられない、荒削りのことが起こっていたようなのです。本書では、そんな当時の日本の時代感を味わうことも出来ます。

 

また、本気で同じような旅に出たいと思う人もいるようです。私自身寝る前に想像するのですが、もしかしたら、中国やタイなどのアジア地域なら、当時の日本と同じような成長を遂げる時代にあって、しかも寝台列車があるので、同じような気分の旅に出られるのではないかと妄想しています。

 

また、現代では、飛行機が何処かへ行くときの手段となっているので、海外を含めて行き先を決め、出かけて帰ってくるだけの旅「阿房飛行機を飛ばす」という事もできます。それこそ、アメリカの西海岸に行くのであれば、10時間ほど飛行機に乗っているし、食堂車はついていませんが、お酒を一盞することも出来ます。そうすると、現代的な阿房列車の旅は、飛行機+世界中の何処かへ行くという考えで新しいエッセンスを加えた旅でもいいじゃないかと思います。

 

用事がないけれど、何処かに出かけて帰ってくる。しかも、観光をしないで、可能な限りすぐに帰ってくるという制約をつける。そんな旅楽しいのか?と普通なら思うところですが、阿房列車を読んだあとなら別です。百閒先生の魔術で、そんな旅こそ味わい深いと思ってしまうのです。

 

阿房列車は3冊あります。手元に置いておくと、ゆっくりとですが、その味わいの縁にハマっていくことでしょう。

第一阿房列車 (新潮文庫)

第一阿房列車 (新潮文庫)

 
第二阿房列車 (新潮文庫)

第二阿房列車 (新潮文庫)

 
第三阿房列車 (新潮文庫)

第三阿房列車 (新潮文庫)

 

 

 

 

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