くらしのちえ

良いものは作り手の知恵が詰まっています。選んだもので暮らしはつくられます。そんな暮らしの一部を紹介します。

アメリカ産の山田錦を使った獺祭がもたらす日本酒革命

獺祭がアメリカ生産をはじめるというニュース。このアメリカ生産のインパクトについて、取り上げてきました。

 

www.kurashichie.com

 

アメリカでは、低価格のアメリカ産日本酒(宝、大関、月桂冠などの現地法人のサケ)と、高価格の日本産日本酒の中間の市場に入れば、アメリカ市場のみならず、アメリカ生産の獺祭が世界を制する可能性があることを指摘しました。

 

しかし、そうなるためには、アメリカ生産の獺祭が、日本と同じように消費者に受け入れられるきちんと美味しい味わいを低コストで作ることが必須です。

 

獺祭が作る純米大吟醸酒の特徴は、山田錦を磨くことで出すスッキリとした味わい。 これを限りなく近い味わいで、日本と同じコストでできれば、まずはアメリカ市場を席巻する事ができるでしょう。すでに獺祭はアメリカでかなり高価格でも受け入れられていますので。もし、日本よりもコストを下げることができるのであれば、これはアメリカから世界中に輸出されることになるでしょう。獺祭は徹底した数値管理で酒造りを標準化させてきたので、原料さえ適切なものが手に入れば、日本と同じ設備を導入して日本と同じ品質の日本酒をアメリカで作ることは可能でしょう。

 

日本酒の生産コストは、瓶詰めコストと純製品コストに分けると、純製品コストが50%。そのうち、7割が米の費用だと言われています。*1

 

 

特に獺祭は、米を7〜8割磨く純米大吟醸なので、米が占めるコスト割合は非常に大きなものになっていると想像できます。

 

そうすると、アメリカでいかに米を安く調達するかが、課題となるのです。日本から米を輸出して使うようでは、日本より高い価格になってしまうので、現地生産の酒米が必須になります。

 

日系のナショナルブランドの作るアメリカ生産の日本酒が使っている酒米は、カルローズ(Calrose)というカリフォルニア米。カリフォルニアのバラと言う意味のカルローズは、実は山田錦と親戚関係とも言える系統のお米なのです。山田錦は、山田穂と短稈渡船をかけ合わせて作られた品種ですが、カルローズは渡船をもとに品種改良されたものなのです。ですので、アメリカ産の酒米も元をたどると日本のもの、酒米としても悪くないのです。

 

ただ、ナショナルブランドの作るアメリカ産の日本酒と同じカルローズを使っていたのでは、現地のビックブランドと特徴が同じになってしまいます。そこで、山田錦が現地調達できれば、それが差別化になるのですが。一般には、山田錦は日本でしか作れない、とても難しい品種だという先入観があるのだと思います。しかし、実は前回の記事で少し触れたのですが、山田錦、アメリカで作っています。

 

www.arktimes.com

 

アーカンソー州のIsbellさんという方が、ある日本人の方から紹介を受けて、まずは日本のコシヒカリ、続いて山田錦を作りはじめることが記事になっています。

 

要約するとこんなストーリーです。

コンファレンスの会場で、隅っこで一人で寂しそうに立っている日本人に、イザベルさんが声をかけた。それは、アメリカ南部の独特の優しさ(Southern hospitality)であった。この日本人は実は世界のコメを研究している九州大学の伊東 正一教授だった。そこで、日本で最も有名で作るのが難しいコシヒカリを教えてもらい、これを自ら作りはじめる。合わせて、山田錦も実験的に作り始めた。その後、現地の日系酒造会社から山田錦を作っているかと問い合わせがあり、そこから、”日本の市場価格の半額”で取引をする契約を交わす。

 

そうして、アメリカの山田錦を使った日本酒は、今アメリカ限定で販売されています。生産量はまだまだ、これからという感じ。

store.takarasake.com

 

この記事で注目すべき点は、アーカンソー州で山田錦は作られていること、そして”日本の市場価格の半額”で販売契約を結んでいること。

 

まだ、山田錦はアメリカではまだニーズが無いので生産量は少ないですが、それでも、半額で購入できるのです。今後アメリカ生産の日本酒が山田錦に触手を向けた時、おそらく低価格な山田錦のマーケットが出来上がることでしょう。

 

そうなると、旭酒造は酒造りの標準化を進めた日本の設備やノウハウをアメリカに移管し、アメリカ産の山田錦を使うことで原材料費の大半を占める米費用を半減することが可能となることによって、日本とほぼ同品質の低価格獺祭をアメリカで作ることが可能になるのです。

 

これが実現すれば、今、獺祭が世界中で受け入れられつつある実態を考えると、アメリカからより低価格な獺祭が世界中に輸出されるだろうこと、そして、獺祭が世界中の日本食レストランのハウスサケを席巻し、アメリカ獺祭が世界で飲まれる高品質サケの基準となること、それを契機に日本酒の浸透が加速するという未来が予想されます。この動き、数年の時間はかかるでしょうが、見逃せないトレンドとなるでしょう。

 

逆境経営―――山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法

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