先日紹介した、原研哉さんの『デザインのデザイン』。その本で、アートとデザインの違いについて知り、デザインの面白さを味わいました。
次に、知りたいなと思ったのはアートの面白さについて。どのような味わい方をすればいいのでしょうか。1950年に出版されて以来16版を重ね、35の言語に翻訳された、美術入門として広く知られるものが、『美術の物語』。この『美術の物語』から考えてみたいと思います。
- 作者: エルンスト・H.ゴンブリッチ,E.H. Gombrich
- 出版社/メーカー: ファイドン
- 発売日: 2011/11
- メディア: 単行本
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- 作者: E.H.ゴンブリッチ,田中正之,天野衛,大西広,奥野皐,桐山宣雄,長谷川宏,長谷川摂子,林道郎,宮腰直人
- 出版社/メーカー: ファイドン
- 発売日: 2007/01
- メディア: 単行本
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美術作品の優劣の判断
本書では、美術作品には物語があり、その物語を理解する味わい方を提示します。文庫版は非常に分厚く、辞書のような本なのですが、全体の半分は美術作品の写真が掲載されており文章自体は500pほどです。(それでも文庫にしては非常に分量が多いですが。)ただ、序章を読むと、本書の伝えたいメッセージが簡潔にわかります。そこでは、「美術とその作り手」の味わい方が書かれています。
まず、美術作品との向き合い方として、好きになるのはどんな理由でもいいけれど、嫌いになるのは、どんな理由でも良いわけではないと書かれています。すなわち、美術というと難しいなとか、ちょっと自分とは合わないなと思うことがあるかもしれませんが、少しだけ立ち止まって考えてほしいと言います。
例えば、絵の主題に魅力がなくても、そこに深い味わいがあることもあります。子供の愛らしい肖像(リュベンス「ニコラ・リュベンスの肖像」)は、引き付けられますが、老婆の肖像(デューラー「母の肖像」)はぱっと見て華がないようにも思いますが、目を背けずに味わえば真実に迫ろうとした肖像の良さがわかるといいます。確かに、シワもよく見ると味わい深いです。(写真を貼り付けることができないので、ぜひご自分の目で確かめてみてください。)
また、「本物そっくりか」という価値基準だけでもだめだといいます。デューラーの「野うさぎ」は写実的で本物そっくり。見るものを圧倒します。しかし、レンブラントの「象のスケッチ」は細部まで描写されていないので、比較すると「野うさぎ」に軍配が上がると考えがちです。でも、「象のスケッチ」は線だけでシワだらけの象の皮膚を感じさせる作品であり、優劣はつけられないと言います。
見た姿から正確でないと文句を言う前に、何か理由があったのではないかを知ろうとすると良いといいます。その背後のある理由を探ることで、一つの作品からさまざまな想像力が働くのです。
「これで決まり」を知ろうとすると美術は楽しくなる
美術館にうやうやしく飾ってある美術作品を見ると、よそよそしいものに見えてしまいます。しかし、絵は人間が人間のために作ったの人間くさいものなのです。芸術家がある特定の状況と目的に合わせて作成されたものだと考えると美術作品との付き合い方が見えてきます。
芸術家は我々と同じような選択の繰り返しの中で作品を生み出しているのです。例えば、家庭で花を生けようとする人は、色の組み合わせを変化させながら、足したり引いたりを繰り返して、色と形のバランスを取ります。こうした活動は、「これで決まり」という瞬間をみつけだすもので、本質は美術作品の制作と同じであるといいます。
これ以外でも、今日着ていく服はどうしようか、この色とこのバランスはどうかなと考えることや、料理を作るときに、どの皿を使おうか、どうやって盛り付けようか、などを選択していくことも、実は芸術作品の制作と同じなのです。
形、色、質感など、私達が気づかない些細なことに対して、とことん突き詰めて、こうしよう、ああしようと繰り返しの中でやっと「これで決まり」と出来上がったものこそが、良い芸術作品なのだといいます。
正しいバランスを求めて芸術家が苦心をする。そのプロセス自体は、見ることはできません。しかし、芸術作品がものとして残っているので、その作品から背後の「これで決まり」となる物語を想像する事が可能なのです。それこそが、美術の味わいかたであるといいます。
本書では、たくさんの芸術作品に対して「これで決まり」に至る物語を説いていきます。芸術家も人間であり、苦心して正しいバランスを探る過程を経て「これで決まり」となるものだという考え方を携えて美術作品に向き合うと、今まで以上の深い味わいを想像できるように思います。
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